ブラックジャック第14話
妙な事になってしまったが、これも因果か、背に腹はかえられぬ。
『ミキ』が納得しているのだし、俺は正確には『ジャック』がだが、牝馬の背にまたがることにした。
『ジャック』とかかわってから、悪い予感は的中する。
しかし、『人には添ってみよ、馬には乗ってみよ』という訳で、誰かと深く係れば、それは共犯関係の密約を取り交わすということで、今回の事は、日本の法律に反する事でもないし・・・。
時間は、人の予測をはるかに超えたスピードで過ぎていくものらしく、また1年がたってしまう。
仔馬たちは無事出産し、2歳馬は次々と入厩することになった。
ところが、意外な事に『ジャック』に言わせれば当然のことかもしれないが、仔馬たちは目覚しい活躍をしている。
新馬を勝ち上がって、連勝街道まっしぐら。それが5頭ともなのだ。
来年の3才クラッシックは父『ブラックジャック』が競馬新聞をにぎわわすことになりそうだ。
そうなると、今年の産駒に、買注文が殺到する。
どうしようかと戸惑っているうちに値はどんどん上がり、申し訳ないような高値で全部変われてしまった。
この調子で行けば俺たちの牧場も名スタリオンの仲間入りが出来るかも知れない。
健康について
健康ブームです。
人間も動植物も、健康に生きる事がテーマである事に変わりはありませんが、健康について考えるのは私達人間だけです。
なぜなら動物たちは本能的にどうしたら健康でいられるかを知っているからです。
牧草地に行って馬に草を食べさせると、青々と伸びた牧草よりも、隅っこの半分も成長していない黄ばんだ草を好んで食べます。
そうした草は硝酸体窒素等の有害な成分は含まず、ミネラルを豊富に含んだ草なのでしょう。人間のように、霜降り肉や、マグロのトロ等を好んで食べるようなことはしないのでしょう。
しかし、人間や人間に飼い馴らされたペットや家畜は、食生活に留意しなければ、健康を保つ事はできなくなってしまいました。
草食動物では『粗飼料飼い』といって、牧草を主体とした飼い方をすることが彼らを健康に保つために必要です。
人間も彼ら同様に今注目されている食物繊維やカルシウム等のミネラルをサプリメントではなく食品から摂る事が必要でしょう。
野菜を中心に取り入れた食生活をすると、食べ物の本来の味が、解ってきます。このレタスは美味しいとか、この人参は甘いとか言ったことです。
そうした美味しい野菜は、農家の人が丹精こめて、有機質中心に作った健康に良い野菜です。
体に良い食べ物を美味しいと感じる味覚を取り戻す事が必要だと思います。
ブラックジャック 第13話
こんな生活をしていると、歳月があっという間に過ぎてしまう。
もうじき、また桜が咲く。
仔馬達も来年は出走だ。
もう一年かけて、しっかり足腰を作って、厩舎に入れば、5頭の仔馬たちも、もしかしたら、成績をあげられるかも知れない。
1年後には馬房も空くので、今年は種付しても良いだろう。
ところが!!
『ジャック』がその気配がない。牝馬達は発情しているのに、だ。
どこが体の具合が悪いのかと、獣医に見てもらったのだが、健康状態に問題はないようだ。
「精神的な問題でしょうな」等と勝手な事を言って、獣医は帰ってしまう。
馬の精神科医は聞いたこともないので、どうしようもないだろう。
人の『インポテンツ』と言うのは聞いた事があるのが馬にもそうしたことが起こるのか。
ともかく、『ジャック』と相談する事にした。
「俺は体はどこも悪くないから、俺とあんたが入れ替われば上手くいくさ。」
ちょっと待て。
俺も馬とやるのは、抵抗がある。だいいち、相手が馬だと言っても、既婚者の俺としては、不倫だろう。
『ミキ』にも相談することにした。
「ジャックと入れ替わっても頭の中だけがあなたで、種付するのはジャックなんだから、どうと言う事はないじゃない。おおいにやりなさいよ。」
と励まされてもなあ!!
動く馬 Ⅱ
前回の続きになりますが、動物は重心バランスを崩すことと戻す事を繰り返して運動します。
そうした事は自然に体が対応して行っているのであって頭で考えてしている訳ではありません。
馬が馬だけで運動する分には
『走ろう』『止まろう』
と思うだけでよいのですが、乗馬や競馬のように人が乗る場合には、もともとの馬の重心の上に人の体重が加わることによって、新たな重心の上に人の体重が加わる事によって、新たな重心が発生します。
そこで乗馬は馬と人とが協力してバランスを保ちつづけなければ思うように動けません。初心者が乗ると思うように動いてくれないのは、馬がバランスを保とうとするのを乗り手が邪魔してしまうからなのです。
それでは乗り手はどうすれば良いのでしょう。
基本的には馬の重心の真上に正しく乗れば良いのですが、動いている馬の上で馬と人の重心を一致させ続けるのは結構難しいことなのです。
ですから多くの練習の時間を費やさなければ、思うように動かす事が出来るようにならないのです。
また、歩幅を伸ばす運動や、障害飛越の後ではどうしても多少なり前にバランスを崩しますので、乗り手が協力して馬のバランスバックを手助けしてあげなければなりません。
しかしそうした練習のプロセス自体が楽しいスポーツであることは、乗馬経験者の誰もがご存知の通りです。
人と動物とが協力しあって行う唯一のスポーツである乗馬は、思うように乗れた時の充実感も一層大きいものなのです。
運動する馬
馬が動くのはあたりまえですが、私の息子はつい最近1才になるまで2足歩行か゜できませんでした。
子供が歩き始めた頃にはしょっちゅう転びます。父親としてはハラハラ見ているのですが、子供は体が柔らかいので怪我をするような事もなく元気に育っています。
ところで人も馬も動きだす為には前にバランスを崩す必要があります。しかし、バランスを崩し続ければ歩き始めた子供のように転んでしまいます。
そこで動物は動きながらバランスを保つことを学習します。
人間はそのために1年以上かかりますが、草食動物はその学習の期間は僅か数日です。生まれてすぐ親と一緒に走る事が出来なければ、肉食動物に襲われて生き延びることは出来ません。
動物は進化の過程で常にリスクを背負うことを宿命ずけられています。人や類人猿は手を使う進化の過程で速く走る能力を失いました。
馬は速く走れなければ生き延びられませんが一方草を効率よく食べるためには首を長くしなければなりませんでした。首が長いことは速く走るためには猫ほどの動物等と比較しても決して有利とは言えないでしょう。
放牧中の馬が走っている時には首を上げます。そうすることで前に崩れるバランスをバックし動き続ける事ができるのです。
乗馬の話になりますが、首を上げて走る馬を乗り手がコントロールする事はできません。
そこで人が考え出したのは屈とう姿勢といって馬の首をチェスの駒のような形にする事です。
屈とう姿勢を作る事によって馬は長い首の重みによって前にバランスを崩す事を防ぐと同時に、乗り手が馬の運動をコントロールすることが出来るのです。
しかし屈とう姿勢を維持して運動するためには馬は充分に調教されなければなりませんし乗り手も多くの練習を重ねなければなりません。
その辺が乗馬の難しい所以でもあるのではないでしょうか。
馬の寿命
私もどんな動物も好きですが、動物を分類する時に『飼える動物』と『飼えない動物』(又は飼ってはいけない動物)と分けて考える事にしています。
飼える動物はペットや家畜の事ですし、飼えない動物とは野生動物のことです。
人は長い歴史の中で、多くの動物とかかわって来ました。家畜は生活を豊かにする為に役立って来ましたし、ペットは人の心を豊かにするために役立ってきました。
犬や猫は人のパートナーですし、牛や豚は経済動物です。
余談ですが、私がペットと考えるのはスキンシッフが出来る動物のことです。結婚前家の奥さんが遊びに来たときに熱帯魚の水槽に手を入れて魚と遊んでいるのを見て驚いていましたが、私にとってはあたり前のことです。
ところで乗馬はペットと家畜どちらに分類したらよいのでしょう。
私も乗馬クラブを経営している以上、経済効果を考えざるを得ないのですが、、家の20才になる練習馬は、まだまだ元気ですが、1日ワンレッスンしか使えません。もっと若い馬に変えた方が得なのは分かっていますが、会員さんもその馬を大切にしてくれますし、私もその馬を手離すつもりはありません。(そうした事が儲からない原因だと解っているのですが・・・。)
つらい話になりますが、長く乗馬クラブをやっていると、そうしたパートナーと別れなければならない時がやって来ます。年令による衰えは私達も含め動物の宿命です。
年寄り馬が1ヶ月でも1日でも元気で生きていて欲しいと思うのは人情ですが、思うようにはいきません。かつて障害馬として活躍した馬を低い障害を飛ばせてみると、昔を想い出して、ちょっと元気を取り戻したような気がします。しかし、意欲はだんだんに衰えていきます。馬のような大動物を死ぬまで飼う事は難しいのです。
しかし、そうした馬達がある日、『もう充分生きたから、もういいよ』とささやいて来るのです。
今私のクラブには25歳になるポニー1頭20才になる練習馬が3頭いますので、そう遠くないうちにまた、悲しい別れを迎えなければなりません。
一方4才のアパルーサと5才のハーフリンガー種がいます。こうした種類の馬は40才位の寿命があると聞いてますので、天寿を全うするのは彼らより私の方が先かも知れません。
ブラックジャック 第12話
俺達の牧場の馬は、『ジャック』と『プリンス』、肌馬5頭と子馬5頭で12頭になった訳だ。
『ジャック』が選んだ肌馬は名血ではないし、『ジャック』は種馬としての実績がないから、この子馬達に買い手はつかない。
この子馬達がレースで走るのは2年以上先だ。
無収入の俺に子馬達を育成牧場に預ける余裕はないから手元に置いて調教していくしかないだろう。
まぁMさんに教わりながら『ミキ』と2人で、12頭の馬の管理と5頭の調教は出来るだろう。しかし、今年種付をすれば来春にはもう5頭家族が増えて、手に負えなくなる。
残念だが、今年は種付を見送るしかない。
『ジャック』もこうした話には、
「俺も稼げないから仕方がないさ。」
と物分りが良い。
パドックで親子の馬が遊んでいるのを日がな眺めているのは、脳みそが腐りそうな程心地よい。
「明日は明日」の良い風が吹いてくれることを祈るばかりだ。
俺も田舎の暮らしがすっかり板について、今年は田んぼも借りて、米を作るつもりだ。
『ミキ』とも正式に結婚したが、こちらの繁殖もしばらく先にすることにした。
ブラックジャック 第11話
種付けシーズンも無事終わり、5頭とも妊娠した。先が楽しみだ。
しかし、『ジャック』が言うようにうまくいって仔馬達がレースで活躍したとしても、これから3年以上も収入がない。
先ず、経費を削減することにしよう。
近所の農家の方から開いている農地を借りて牧草を作る事にした。俺はこうした事はど素人だが、農家の人は親切で種まきの仕方などこまごまと教えてくれる。トラクター等の農機具も貸してくれて、夏には立派な牧草が育った。
毎日牧草を刈ってきて与えれば、馬は草食動物なので餌代はほとんどかからず大助かりだ、
ついでに俺達の野菜も作り、毎日きゅうりばかり食べて『河童』になりそうだが贅沢は言えない。
たまには、『ジャック』をポケットに入れて厩舎をまわり、レースの情報を仕入れる。
『ジャック』が出走する馬から体調などを聞き出す訳だ。情報の量が増えれば馬券が勝てる確立が上がるだろうとの思惑だが、こっちの方はトントンで、あまり儲からない。
もっとも俺も『ジャック』以外の馬に本気でつぎ込む気にならないので、買い方もお遊び程度だ。
『ミキ』は乗馬の試合での成績が買われて、近くの乗馬クラブで『インストラクター』として頼まれていて、人気があるようで多少の小遣い稼ぎになるようだ
そんな生活が一年続いて、桜の季節には5頭の仔馬が生まれた。